協会便り 2020年11月号
「追悼 ジュリアン・ブリーム」(現代ギター10月号参照)
今年8月、イギリスを代表するギタリストであるジュリアン・ブリームの逝去が報じられた。このことは、世界中のクラッシック音楽家及びクラッシックギターファンに大きな衝撃を与えたに違いない。私もまたその一人である。ジュリアン・ブリームは、当協会が理想と掲げているスペインの巨匠、A.セゴビアに、『この少年は天賦の才に恵まれている。大きな可能性を秘めており、きっと、演奏家として大成するだろう』と、デビューの年にその天賦の才を称賛されている。セゴビアによる賛辞の言葉がその後の彼の成功と名声に大きな影響をもたらしたことは言うまでもないだろう。
若い頃、彼の弾くフレスコバルディの「アリアと変奏」の演奏を聴いた。その圧倒的な質の高さと優れた表現力に心底感動したことを今も懐かしく思い出す。セゴビアの影響を強く受けながらも自分自身の優れた演奏スタイルを確立し、クラッシックギター界に輝かしい功績を残した「ジュリアン・ブリームの音楽人生とその功績」の一端を「現代ギター10月号」からの抜粋で紹介する。
今月は、T・ワシリー・サバの記事からの抜粋を紹介する。
『ジュリアン・ブリームの演奏家としてのキャリアは、1947年2月17日に行われたデビュー・リサイタルから始まった。同年の6月には、早くもギター専門誌「BGM」の表紙を飾ることとなる。編集者は、“驚異的な記憶力と相俟って、彼は読譜の才能に長けており、これによって彼は巨匠たちの作品に精通することができたのだ。・・・この若きイギリス生まれのギタリストが、スペイン生まれのギターという楽器の演奏において、その既成概念を根底から覆し、これまでにない程の高いレベルにまで押し上げるであろうことを確信している”と絶賛している。この時ブリームはまだ13歳だったが、編集者の予言は全て的中したのだ。この年の12月、彼はロンドンのケンブリッジ劇場で行われたA.セゴビアのコンサートを聴きに行っている。彼は、双眼鏡を持ってセゴビアのテクニックを観察したという。若きブリームは、コンサート後のレセプションに参加。セゴビアの前で演奏し、前述の賛辞を受けている』
T・ワシリー・サバの「音楽人生とその功績」より
彼の卓越した技術と表現力が、本物へと向かう強烈な憧れと、それを徹底的に追及していく鋭い観察力から生まれていることを如実に物語る記事である。また、ギターを大事に扱った彼の伝説の中で、特に気に入った所を紹介する。
『演奏家になったばかりの頃、あるリサイタルの後で、ハウザーのギターを無造作に買い物袋に突っ込んだ女性が楽屋を訪れたことがあったそうだ。驚いた彼は、その場でその楽器を買い取った』
ジョン・ミズルの「思い出」より
ギター愛にあふれるこのエピソードからは、「ギター道」に生涯を賭けた彼のやむにやまれぬ熱い想いがひしと伝わってくる。次回は、ブリームの「演奏スタイルの確立」について、深掘りしてみよう。
2020.11.01
吉本光男