ギター上達コラム

    第91回 やってみなければ!

 

若い頃の反省を含めて、「結果はどうあれ、やってみなければ何も生まれない」と常々思っている。勿論、周到な準備が前提の考え方ではあるが、まずは果敢に挑戦することを心掛けながら生活しているつもりである。

ところで、やると決めたことも頭で考えているうちはいかにも上手くいくような気になってしまいがちだが、実際にやってみると予測が見事に覆されたという苦い経験は誰もが持っているのではないだろうか。

それは人間が、「自分が見たいものだけを見てしまう生き物」だからであるという。

2千年以上も前に生きた古代ローマ帝国の英雄ユリウス・カエサル(シーザー)も、『人は喜んで自己の望むものを信じるものだ』という有名な言葉を今に残している。

たとえこれまでに積み上げてきた知識を総動員して考えた事であったとしても、臨場感のない所では感情は動かない。自分でやってみることでしか本当の所は分からないのだから、出来ることならまずは行動に移してみることだ。「失敗のない人生こそが失敗である」というのは、その意味において実に名言である。

さて、一歩を踏み出すというのは、具体的にはどうすることなのか。

まず「共感してくれそうな人にしゃべってみる」というのがある。これは結構効果的だ。その際、恥ずかしがらずできるだけ明確に明るい声でしゃべってみることだ。「ほら吹き」と笑われそうなことでも、勇気を出して話せばお互いの距離が縮まり共に未来を創っていく頼もしい協力者になってくれるかも知れない。

種も蒔かなければ芽は出ない。人も又、やってみなければ本当の所は何も分からない。

その際に大事なことは、今ある日常に「語ることのできる友がいることに感謝する」ことであろう。感謝とは、今あることに対して肯定の眼差しを持つことに他ならない。心に誠の感謝のないところでは、物事は上手く回っていかないものだからだ。

「そうは言うけれど!」と言う声が聴こえてきそうだ。だが、一歩踏み出してしゃべってみたことで自分自身の想いがより明確になり、現実に近づいていく感覚が生まれてくるのは確かだ。それだけでも、まずは「よし」とすればいいだけのことだ。

人は、当然ながら、リスクより無難を選びがちだ。「安全志向」が前面に立ちはだかり、結局はやらずに終わってしまうということはよくあることだ。

よく分からない世間に遠慮して、「いや、いや、いや!」と手を横に振りながら後ずさりする弱気にサヨウナラ。一歩前に踏み出してみよう。動いた分だけ気づきがある。

結果が自分の思っていたことと違っていたとしても、それでも、一本の「わらしべ」くらいは掴んでいるものだ。踏み出し、躓いたところで掴んだ「わらしべ」が後になって自分の道を照らす標になっていることだってある。

勿論、未知の世界を知的に広げてくれる本の力は素晴らしい。生きていく上で知識が助けになる事は多いのだし、人生が豊かになることも確かなことだ。

 

しかし、私たちは、やってみなければ分からない世界に生きていることも確かなことだ。結果として何が幸いするかは、誰にも分からない。分っていることは、行動して掴んだものだけが本物の知恵に育っていくということだけである。

                           2022.04.01

                                                        吉本光男