ギター上達コラム

       「初心」に戻り

 

この道を「兎にも角にも」歩き続けてこられたのは、応援してくれている沢山の方々の存在は勿論のこと、偉大な先人たちが残してくれた多くの尊い遺産のお陰もまた大きい。立ちはだかる巨大な壁に向かって悪戦苦闘した中で磨かれていった心と技があって今の自分があることを思うと、感謝の念でいっぱいになる。私の場合、それはセゴビアであり、ブリームであり、イエペスであった。

当然私はセゴビアにもブリームにもイエペスにもなれない。しかし、彼らが目指したであろう頂きを私もまた生涯をかけて目指していることだけは確かだ。

今年は「AlbumⅤ」の完成に向けて、多くの時間を割いて集中していく事になる。この新しいAlbumに、これまでの想いの全てを注いでいくことが今年度の最大の課題である。

己の可能性を信じ、ギターの魅力を引き出すための技量を磨くことに徹したいという初心に立ち戻り、真摯に努力を積み上げている。幸い、左手親指の腱鞘炎もほぼ回復した。初心に戻ってギターの持つ魅力を存分に届けられ「AlbumⅤ」にしていきたいと願う頭の片隅に、ふっと浮かぶ一つの想いがある。

語弊を承知で言わせてもらうなら、このアルバムを「一つの壁」になり得る程のものにしていきたいと願う心である。ギター一筋と言えば聞こえはいいが、つまりは「ギターしかやってこなかった」私にできる恩返しは、後からくる者の為にせめて「真っ当な壁」を用意することではないのかと、この頃しきりに思うのだ。CDはもう古い。時代に合わない。そんな言葉が聞こえてきそうだ。だが、それもこれも承知の上で、これまでのAlbumとは一線を画すものにしたいと願う心がある。これまで切磋琢磨してきたあらゆる技を、この1枚に託したいという思いである。

ギターを片手に、初めて教室に行った時のワクワク・ドキドキ感。巨匠たちの名演奏に鳥肌が立ったあの瞬間の衝撃と興奮。ギターでやっていくのだと「志」を決めた日の身震いするような高揚感。その時々に溢れ出た熱量が、私を突き動かす巨大なエネルギーになっていった。それらの記憶が、熱を伴ってまざまざと蘇ってくる。思えば、波乱のなかで人生は6周りしたことになる。遅れ気味ではあるが、年内の完成を目指して精いっぱいやり抜こうという気持ちで心は漲っている。

 自分自身の「課題」を明確にするつもりで書いたコラム「初心に戻る」であるが、会員の皆様もまた、漫然と1年間を過ごすことなく「よりよい1年」にする為の小さな種火にしていただけたら幸いである。

                              2022.03.01

                                                         吉本光男