ギター上達コラム

         第56回   初めの一歩」 の壁

 

 5月である。今月から元号が「令和」となる。「令和元年」という晴れがましいこの時に南米名曲集「AlbumⅣ」を完成させる機会が巡ってきているご恩に心から感謝したい。今月、30日には古希の誕生日を迎える。今、誕生日に向けて「「AlbumⅣ」を完成させようと一日一日を丁寧に頑張っている自分が居る。

 

思えば「ギターソロアルバム」を出すことは、若い頃から私の夢の一つであった。まだ30代の頃に、アルバム制作に挑戦したことがある。無謀にも録音機械を買いそろえ、アルバムのカバーデザインまで依頼してファーストアルバムをつくろうと意気込んだことを昨日のことのように思い出す。その時初めて、コンサートで演奏する技術と録音に要する技術とは似て非なるものであると気づかされた。挫折という悔しい思いはしたが、そのときの悔しさが「アルバム制作」への燃えるようなエネルギーになって今に続いていることを思えば、人生に無駄なことは一つもない。

 

50代を目前にして「ソロアルバム1」を完成させ、初めて世に出すことになる。そこに至るまでには演奏技術だけではなく、精神面で乗り越えなければならない壁があった。誰でも「はじめの一歩」は怖い。自分自身もそうであったように、踏み出さなければ受けることのない恥ずかしさや批判をまともに受けることになると思ってしまうからだ。だが、そう思っているのは自分の「余分な敏感性」だけのことで、「やり遂げたい!」という強い思いや覚悟さえ揺るがなければ、思いは必ず届くものだ。これは、一歩を踏み出しリングに上がってみなければ、決して分かることはなかった心の頂である。リングに上がるということは、自分自身を世にさらけ出すということだ。私の場合も、アルバムの完璧を願うあまり「これでいい」という決心に届かない壁の前で、苦しく悶えた日々があった。それは、壊すことなどできないと思うほどに固い壁であった。何度も跳ね返され、その度に心身が鍛えられ強くなっていったように思う。

 

その間、思いを諦めることなく「AlbumⅠ」の発表にまで漕ぎ着けることができたのは、ギターのご縁で繋がった多くの人たちの声援や心遣い、普段の何気ない励ましの言葉によるものが大きい。演奏技術を磨くことは私自身の問題として解決できる。だが、精神面でのことで言えば、家族や周りの人たちからの声援なしに立ち上がる心の力は湧いてこなかっただろう。この道に繫がる全てのご縁とお陰に、心から感謝したい。この挑戦を通してこの道に「完璧というゴール」は無いことに気づかされ、今の精いっぱいを「打ち出す勇気」を頂いた。これはギターだけに限らない。何事によらず「はじめの一歩」を踏み出し、リングに上がった者だけがその経験を通して掴む人生の真実である。生みの苦しみを経た私の「ギターソロアルバムⅠ」は、そうやって誕生した。

 

1枚目ができると、不思議なもので「アルバムⅠ」を超えるものをつくりたいという更なる情熱が湧いてきた。その熱に突き動かされ2枚目、3枚目をつくってきた。そして今は、4枚目のアルバムづくりに夢中である。未完の思いは尽きない地熱のようなエネルギーとなって今の私を支えている。現在「アルバムⅣ」のための準備が整い、計画に沿って順調に練習を進めている。皆様からの声援を受け、アルバム曲目への準備を万端にすることが今一番の課題である。夏には完成させ皆様の手元にお届けしたいと、精進の日々を愉しんでいる。

                        2019.5.01

                         吉本光男