ギター上達コラム
「調和」を感じて
新生トレモロの定着を目指して奮戦の日々が続いている。このとき、最も気を遣うのは「刻みを纏わない自然のゆらぎ」である。スタートした瞬間から風に乗るトレモロがうまく表現できなければ、メロディーとそれを支える伴奏が美しい旋律となって調和し力強いエネルギーとなって曲を最後まで引っ張っていっていくことはできないからだ。
「調和」が最も求められるはずの「アルハンブラの思い出」の演奏において、これまでの演奏では自分の理想とする「トレモロ」を弾くことに追われ、「調和」を意識するところまでいっていなかったと言える。実に片手落ちの演奏だったわけだが、しょげている場合ではない。足りなかったことの発見を有難い気づきとして前に進むだけだ。
スタートから風に乗るトレモロの感覚は、「どの曲においても言えることだろうか?」これまで弾いてきたあらゆる曲に対してこれと同じ考え方が当てはまるのかどうかが気になりはじめ、「調和」に対するより深い関心・探求心となって私の心を支配するようになった。新たな検証の始まりである。
9月以来の検証の印象では、演奏する脳内に「オーケストラ」のイメージを持って弾くときが、「調和」を感じる感覚に最も近い気がしている。「オーケストラ」を意識した演奏では、「歌うように弾く」ことが自然になるからなのかもしれない。まるで、意志を持った「6本の糸」が、メロディーと伴奏を絶妙に調和させながら物語を牽引しているような雰囲気を醸しだす。
調和を感じながら弾く演奏になると、これまでの舞台演奏で感じていた「重苦しい感覚」がなくなった。求めるスピードに自在に乗れる心地よい解放感が、自由で軽やかな演奏を可能にしたのだろう。
新生トレモロから派生したこれらの効果は、これまでに弾いてきたどの曲においても生かせることを実感している。一つの技術の獲得が、これ程の影響を与えることになるとは、私自身想像もしなかったことである。
また、「スタートへの意識」がより明確になったことも嬉しい変化の一つである。
物事を推し進めるに当たって「初め良ければ・・・」や「全てはスタートで決まる」等はよく使われる言葉だ。演奏においても、スタートの一音がその後の演奏を決定してしまう。
「こんな曲だったのですね? 別の曲なのかと思ってしまうほど違いますね」そう言う生徒さんの感想には苦笑いするしかないが、それはある意味嬉しい感想でもある。
「重苦しさ」から解放され、自由になった心で演奏すると、弾いている方も以前とは違う物語が浮かんでくる。違って聴こえるのは当然のことだろう。
「調和」を感じながら演奏する自身の内的環境をさらに磨いていくことで、これからの演奏がますます楽しくなりそうだ。
2022.10.01
吉本光男