ギター上達コラム
第95回 ギターは小さなオーケストラ
諸説あるらしい。だが、「ギターは小さなオーケストラ」というフレーズはベートーベンの言葉であるというのが定説のようだ。
最近、この言葉がよりしっくりくるようになったことを嬉しく思っている。今回は、そのことについて思う所を書いてみよう。
これまで、ギターの魅力をどこまでも追求していくための中心課題として、ギター6本の弦それぞれが発する響きに集中し耳を傾けることに徹してきた。
上達コラムにも「よく聴く」ことの重要性は繰り返し取り上げてきたが、どれだけ言っても言い過ぎではないと今も思っている。私の場合で言うと、弾いたギターのサウンドホールから飛び出してくる音色に耳を傾け精査していく態度は、日々のギター練習において習性になっている。上達の要ともいえる「聴くこと」に徹する態度が、6本の変幻自在に歌う弦を持つギターという「小さなオーケストラ」の魅力を引き出すための最大の方法だと信じているからである。
ギターが、いわゆる「オーケストラ」のような広がりと奥行きのある音響を持つと考えるなど笑止。そう公言してはばからない人は確かにいる。
私自身は、過去においてコンサート会場で鳥肌が立つほどの感銘を受けた演奏を何度も聴いてきた。ライブで聴いた先人たちの「魂のギター独奏」は、「小さなオーケストラ」という言葉を信じるに足るものとして私の中に根付き、今も生き生きと息づいている。それは、ギターが、その特徴である「多音」(同時に2つ以上の音が鳴り響く現象を総称していう言葉)がもたらす豊かな音の色彩と、「和音」が創り出す豊饒な響きを併せ持つという点で、優れた楽器であることの証明に他ならない。
ベースを担当する6〜4弦、主にメロディーを担当する3〜1弦。それぞれがそれぞれの独自な魅力を持って立ち上がる音の響きが、幾重にも幾重にも交ざり合いながら会場を満たしていくとき人は言葉を失う。それぞれの弦から溢れる多彩な音の煌き、調和のとれた和音が醸し出す豊かな音の響き合いが人の内面へと向かい、見えない波動となって聴く者の心を揺さぶるのだ。憂いを含むギター特有の甘い音色が歌うように空間を満たし、しかも有機的に融合し合う空間に居ると、「ギターは小さなオーケストラ」という表現がぴったりと呼応することを思い知らされる。
勿論、ギターはもともとサロンの楽器である。大きな会場でやみくもに音を頑張らせるという話をしているわけではない。一音一音が放つ多彩な音色の響きや広がりを聴き分けて創る目指したい究極の世界の話をしたいのだ。
現在の私自身の立ち位置は、「小さなオーケストラに向かう発展途上」の位置ではあるが、それでも「オーケストラ」をイメージしながらの練習は心を深く楽しませてくれる。
大事なことはイメージすることだ。ギター曲がオーケストラ用に編曲され、演奏されていることをイメージしながらギターを弾くということだ。そのように弾くことによって、幅の広い伸びやかなオーケストラのような雰囲気が出てくるものだ。その時、まさしく「ギターは小さなオーケストラ」になり得る。実際の演奏においてその効果が現れる日を目指して、共に頑張っていこう。
2022.08.04
吉本光男