ギター上達コラム

  第82回   「練習の質」考

 

毎日の「練習の時間はどのくらいがいいのでしょうか?」という質問をよく聞く。初級の人と上級の人とでは、時間もその内容も随分と違ってくるので一概には言えないが、「練習の質」という点ではそれほど違いはないように思われる。

 

ギターの練習に限らず、芸事の練習ではそれに向かう「意欲の有無」が大きくものを言う。やりたい気持ちが強ければ強い程、時間では計れない効果が現れてくるものだ。やらされているという消極的な気持ちで向き合うならば、どんなに時間をかけても上達は見込めない。

 

つまり、練習の質という視点で見ていくならば、初級〜上級に関わらず、その成果は、

 

(基本の練習 + 部分と全体の補強 + 表現の工夫)×「時間」×「意欲」となる。

 

「時間」と「意欲」は掛け算であることに注意したい。どちらがゼロでも成果はゼロになる。どちらかでもマイナスであれば、やればやるほどマイナスは大きくなる。やりたくないときの練習は、時間の無駄という事になりそうである。

 

私の場合、午前と午後で2時間ずつというのが普段の練習時間である。休憩を考えると、正味各1時間半くらいというのが練習に充てられる時間という事になる。

まず、ビラロボスの「練習曲No.1」を手始めに、「過去」「現在」「未来」の分類の中からどこを選択するかに依るが、「現在」取り組んでいる曲が最初に来ることが多い。その場合、1曲に掛ける時間は大体30分程度である。苦手なパッセージを繰り返し練習することから始まり、技術的に難しい箇所を何度も繰り返すことでスムーズな流れを体に染み込ませ、演奏技術の向上を図る。(「未来:新曲」であればその時間では済まないし内容も変わってくる。)

全体を通して弾くのは最後になる。ここでは、曲の「イメージの設計図」(上達コラム5月号参照)を明確にし、本番のつもりで弾くことに集中する。それの繰り返しである。

整理すると下のようになる。

① 基礎練習は、ビラロボスを超ゆっくり、普通の速度、速く、音色を変えて、リズムを変えてと、様々なバージョンで指を慣らしていく。

② 部分を補強する練習では、イメージの通りに出来るまで何度でも繰り返し練習する。

③ 全体を通す練習最終段階では、「イメージの設計図」に添って表現することに集中する。

以上は、中級以上の「練習時間」の使い方について述べたものである。

 

さて、「練習の時間」だが、この質問を持つのは比較的経験年数の少ない生徒さんが多い。そんな時は、「1日に15分でもいいから毎日やりましょう」と提案している。まずは毎日、ギターを持つ習慣を身に付けることが大事だからである。6月号の「協会だより」参照)

11回ギターを持つ習慣が身に付いた時にようやく、あなたの「上達の扉」が開かれることになる。時間は何分でも構わないが、練習する時はできるだけ他の音がしない静かな場所でやることをお勧めしたい。自分の出す音をよく聴くためには、他の音が邪魔しない静かな場所で集中する必要があるからである。やがて練習に熱が入ると15分が12時間になることも珍しくなくなるが、その時に気を付けたいのは「休憩」を必ず入れるという事である。

立ち上がってヨガをやったり体操をしたり、体を動かして気分転換をする。これもまた、大事な練習の一環であることを肝に命じたい。

                       2021.07.01

                        吉本光男