ギター上達コラム

  第80回「イメージの設計図」

 

Withコロナで「ウーバーイート」によるデリバリー、宅配飲食が流行っているという。世の中の食文化は目に見える形で急激に進化しているようだ。超高齢化が避けられない日本にあって、今後も外食産業の一端を担う新しい食の形として大きく成長していくに違いない。

 

デリバリー新商品の開発は価値の創造でもある。多くの時間と知恵と努力を払って「付加価値」をひねりだし、作り手の想いと出来上がるまでの背景を一つの物語として届ける。

味・値段・魅力的な形状・届ける為の工夫等々、「ヒット商品」ができるまでには、新たに創造した設計図に対して、どれだけの覚悟を持って精密に具現化したかに懸かっている。

 

出来るまでにかけた時間と熱量と渾身の努力の結果である「ヒット商品」とは、作り手が明瞭な「イメージの設計図」を持ち、そこに向かって出来るまで何度でもやり直していくという丁寧な作業の積み上げの中からしか生まれてこない希少なものなのだ。

 

 

演奏もまた、曲への想いを深く創造した「イメージの設計図」が重要であるという意味では、先の新商品開発の精神と変わらない。

イメージした音色になるまで、イメージした強弱の流れができあがるまで、イメージした通りのメロディーの緩急が表現できるようになるまで、倦まず弛まず何度でもやり直す。

大事なことは、すぐやる情熱と必ずやるという熱意を持っているということだ。加えて、

イメージ通りに“できるまでやる執念”、であり、上達の為の練習には欠かせない。

勿論、楽譜から思い描く曲のイメージを演奏という形で体現していくとき、演奏技術や音色の良さがネックになるのは言うまでもない。だが、それよりもっと重要なことは、自分の内に明確な演奏の「イメージの設計図」を持っているということなのだ。

 

分かりにくい説明になってしまい恐縮だが、とりあえず続けよう。

これまでにも「自分の出す音をよく聴く」ことの重要さについて、繰り返し述べてきた。しかし、ここに至って言い足りていないことに気づかされる。

「自分の出す音をよく聴く」とは、「イメージの設計図」に添ったメロディー、音色が出ているかどうかを傾聴するということなのだ。つまり、イメージした音やメロディーがイメージした通りに出ているかどうかに傾聴するということになる。

欲しい音色、欲しい速さ、欲しい緩急。全てが願う形になるまで繰り返し練習していく。そうすることで、実際の演奏では一音一音に想いがこもり生きた音になって躍動していく。

 

この「上達の為の練習」は、実践し実際に体感するしかない。頭で考えていてもちっとも腑に落ちてこないし、分からない感覚が続くだろう。まずは、試してみることだ。頭の中に設計図がないまま演奏を始めても、本当の感動には至らない。

技術的に弾けるようになったら、書かれた音符を材料にして曲想を練り自分なりの「イメージの設計図」を作ってみよう。

実際にやってみると新たな問題にぶつかるかもしれないが、その時が上達に向かう絶好のチャンスと考えて、挫けず工夫で乗り越えて欲しい。

挑戦した者が掴む特別の至福は、必ずやあなたを次のステージに向かわせる大きなエネルギーになってくれるだろう。

                        2021.05.01

                                                 吉本光男