ギター上達コラム
第72回 「卵が先か 鶏が先か」
先月、J・ブリームの逝去が報じられた。
今は亡きA・セゴビア、N・イエペス、と並び称されたJ・ブリームの逝去報道は衝撃であり、何か大切なものを失ったような空虚感に襲われた。身近に感じていたセゴビア、イエペス、ゴンザレスに次いでブリームである。ギター界を牽引してきた世界の巨匠たちが一人、又一人と消えていくのは本当に寂しい。
思えば、故A・セゴビアを正師と決めてギターの道をひたすら邁進してきた半世紀である。イエペスとは、足利市で開かれた講習会で知り合った。聴講生としてではあったが、ツーショットで写真を撮ったり、握手をかわしたり爪を見せてもらったり、親交を深めたことを思い出す。
J.ブリームをはじめ。Jトーマス、C.パークニング、S.グロンドーナからは、荒井貿易社長であった今は亡き荒井さんの紹介で直接演奏を聴いてもらう栄誉を受け、大いにやる気にもなった。また、A.ディアスにはマスタークラスにて指導を受けたことも。後、スペイン在住のゴンザレスからは、演奏に関する貴重なアドバイスを受けた。当時、彼の演奏に非常に興味を持っていた私は、直接会ってみたいという気持ちが抑えられず友人を介してスペインの彼の家まで押しかけたことを昨日のことのように思い出す。その時、彼から直接レッスンを受け、その後のギター人生を大きく変えることになる貴重なアドバイスをもらった。
有難いご縁で、世界をリードするこれら偉大なギタリスト達から沢山の宝を頂いていたことになる。今の自分があるのは、これら先輩方の大きなご恩のお陰が大きい。頂いた沢山の宝を、自分だけのものとして留めておくのはいかにももったいない話だ。今、プロ・アマ問わず、ギターを愛する人たち皆のものにする為にもFacebookやTwitter等でギター上達の為の講座を発信しているのは、ギターの事であれば少しはお役に立てる。そんな気がしているからである。
「日本ユニバーサルギター協会」も、そのような思いで立ち上げた。速さや広がりで勝るTwitterやFacebookが占める割合は次第に大きくなってきてはいるが、この「上達コラム」もまた大切な発信の柱である。勿論、自分自身の技術の鍛錬・人として修養を積む努力を続けることは当然のことである。だが、ブリーム逝去の報は、先人たちが伝えてくれた「ギターの魅力」を伝えていかねばという覚悟にも似た想いを、胸の奥からあらためて呼び起こした気がしている。
「ギターの魅力」の第一は、音色にある。求める音色を演奏に生かし切ることができるようになるまでには、圧倒的な練習量と持続する強い意志が必要であるし、芸の「質」が圧倒的な練習「量」の中からしか生まれないように、クラッシックギターもまた、日々の努力の積み重ね以外に上達への道はない。ただ、面白いと感じる時、努力は辛いものではなくなる。面白いと感じるまでにはしかし、ある程度の基礎訓練や練習量が必要であることもまた事実である。
「卵が先か、鶏が先か」どちらが先になるのかはその人が持つ感性にもよるだろうが、共に歩く仲間の存在は大きい。練習の時間が楽しいと感じるようになれば、「しめたもの」だ。そうなるには、やはり適切な練習の仕方を知る必要がある。今後も、微力ながらFacebookによる講座で順次「練習の段階」を示していくつもりである。必要と思われる方は参考にしていただければ幸いである。
2020.09.01
吉本光男