ギター上達コラム
第61回「分岐点」に吹いた風
先月、9月3日から3泊4日で、鳥取県岩美郡岩美町にある2つのお寺で開催される「お寺コンサート」に招かれた。お寺2か所と幼稚園を含めて、3箇所でのギターコンサートである。生徒さん3人が鳥取観光を兼ねて同行することになった。今月は、その4日間の旅の顛末について書くことにする。
コンサートは、9月4日と5日の2日間だったので、3日の朝から新幹線で姫路に向かい姫路で「JRスーパー白兎号」に乗り換えて鳥取駅まで行くことになっていた。鳥取駅からは現地の対応係として昔の生徒さんである田中彰彦君が全て仕切ってくれることになっていたので、ある意味「鳥取観光を含めた楽しい演奏旅行」になる「はず」であった。だが、現実は真逆の展開になっていった。怒涛の如く次々に問題が押し寄せるなか、絶体絶命の選択を迫られる「試練の演奏旅行」となったのである。
出発前夜、腎臓の石が動き「腎臓結石」を引き起こしていたのだ。その夜は腹部の痛みでなかなか眠れなかった。しかし、それとは気づかないまま睡眠不足の体を押して何とか出発した。私の中では「食あたり?」位の判断だったので、胃酸を飲んだり食べるものを制限したりして痛みをしのぎながら鳥取駅に向かったのだった。田中君に迎えられホテルには着いたものの、このままで演奏することは無理だと判断。内科で点滴をしてもらうつもりで近くの医院に歩いて行った。検査結果は「白血球が異常に多くなっているがはっきりしたことはここでは分からない」というものであった。内科医は、直ぐに「日赤病院」を紹介。そのまま「日赤病院に直行」することになる。鳥取日赤病院での検査結果は、「腎臓の中の石が尿管に出てきて、尿管の途中で止まっている」それが原因で腎盂炎を引き起こし細菌がはびこり発熱があるというものであった。「即入院!命とコンサートとどちらが大事か!」と言うようなニュアンスで脅かされ、「お寺コンサート」は「もはや風前の灯火」となっていた。
だが、幸運の女神は私を見捨てることはしなかった。ちょうどその時、手術を終えばかりの泌尿科の専門医が診察室にもどって来たのである。その専門医の診察を受けることで、私は絶体絶命という「風前の灯火」から、希望に向けて大きく舵を切ることになったのである。とりあえずホテルに戻り、医師からもらった熱を下げる座薬と、細菌を抑えるための抗生物質を投与しながら朝を迎えた。その後、2日間に渡って行われた「3つのコンサート」を無事に乗り切ることができたのは、3人の応援団の頑張りと現地スタッフの方々の細やかな心配りのお陰であった。
全行程をやり終えたとき私は、コンサート開催に当たって中心になって動いてくれていた田中君の立場やメンツをつぶさずに終えることができたそのことに、心から安堵したものだ。「特別に何か大きなものに守られている」ことを強く感じ、全ての人・もの・事に深く感謝した。お寺でのコンサートだっただけに、ご先祖様に守られていたのは勿論であろうが、同行してくれた3人の親衛隊の心づくしの働きは本当に有り難かった。何より感動したのは、田中君がこの企画が決定した2月から「魔除け」にと鷹の軸をかけ、毎日祈っていたという事実である。絶体絶命の「分岐点」で吹いた神技的な風、それこそは彼の「一つ事を念じる」真摯な真心が起こした技であり、ギターを愛する心が吹かせた奇跡の風であったのだと思う。
2019.10.01
吉本光男