ギター上達コラム
第54回 めぐる 「一体感」
季節は廻り早くも3月の声を聴く。庭にも色とりどりの春が芽吹き、時間は正しく過ぎているらしい。
昨年末から、「アルバムⅣ」制作に向けて新しい曲、これまで弾いてきた曲の指使いを見直している。そんな中、これまで思いつかなかった運指に気づいた時などは、思わず「ときめいて」頬が緩んでしまう。運指における「無限の可能性」に胸の高鳴りを覚えるからであろう。幾つになっても気づきの前では少年ように心が弾む。ただ、「無限の可能性」のなかから最も効果的な運指を確定し、徹底的に体にしみ込ませる過程では好きでなければやっていられないと思う程の根気がいるのは確かだ。反復練習を緻密に繰り返すのだから、頭で考えている限り単純で退屈この上ない作業に思えるかもしれない。だが、実際に「行動目標」として実践していったとき、そこには「深くて面白い」世界が広がっていることを知ることになるだろう。この繰り返しの反復練習を、ワクワクしながら何処まで続けられるか。「上達」への別れ道は、案外こんな微細なところにあったりする。
今月は、単純に見える修練の中で私が体験した不思議な“めぐる「一体感」”について書いてみよう。
爪弾いた音たちは、これまでであればギターのホールから直接飛び出していた。ところが最近は、弾いた音の響きが私の体を通してギターに還流し、再びサウンドから前に飛び出していく感覚なのである。
すなわち、私自身がギターと音叉のように共鳴している感覚なのだ。ギターを弾きながら聴きながら、“めぐる「一体感」”のなかで、私は至福の時を過ごしているということになる。この“めぐる「一体感」”の感覚は、決して私だけの特別なものではないはずである。弦に指を向かわせるとき、弦に触れて音を出すとき、「念を入れて聴く」態度が身につきさえすれば、誰もが日常の練習のなかで獲得できる恵みの境地といえるだろう。「やる」か「やらない」か、ただそれだけの問題なのだ。
以下は、「やる」と決めた人が練習で心がけたい「基本の3項目」である。
① 求めてやまない、自分が理想とする音色を持つ。(イメージする力に通じる)
② ギターが紡ぐ音たちの音色に集中し、熱心に聴く。(弾くことに追われて音色がおろそかになる人が多い)
③ ホールから飛び出す音に耳を澄まし、さらに良いものにしていくための工夫を怠らない。
つまり、私の中で起きている“めぐる「一体感」”は、自分の出す音を、理想とする音とすり合わせながら「一心に聴く」ところから生まれていると言えるだろう。自分が出す一つ一つの音を繰り返し、繰り返し吟味していくということだ。
それは、単純な繰り返しとは全く違う世界である。
弾きっぱなしで吟味しなければ、音に対する感性は決して磨かれることはない。何度も何度でも弾いてみるということは、弦の違いやタッチの違い、同じ弦でも場所の違いで変わる音の響きに敏感になるということだ。体にしみ込ませるように「違い」を感じながら弾いていると、やがてこの一連の探求が「面白い」と思えるようになる。薄皮をはがすように研ぎ澄まされていく音色。「やる」と決めた挑戦者だけが、この一連の繰り返しの中に、気づきを孕んだ素晴らしい世界が広がることを知ることになるのだ。
ただ、上記の感覚を得るには、あなたが、あなたのギターで実感的に体得していくしかない。もしも、「そこまで聴けない」と言う人がいたら、自分の出す一音だけに集中してみよう。自分がどんな音を出しているのかチェックするだけでも意識が変わってくるはずだ。
ギター上達のコツは、音に敏感になることが基本だからである。
2019.03.04
吉本光男