ギター上達コラム

   第43回 「音の景色を観察する」~基本の中身~

 

はや4月になる。世の中は年度替わりの諸行事であわただしい。「切り替わり」のこの時期、新しい吉兆への予感に気分を高揚させている人たちも多いことだろう。さて、4月の「上達コラム」では、ギター上達の「基本」について考えてみよう。まず、基本の大事さについての記事を抜粋で紹介する。

 

『物事を学ぶに際して、「基礎」や「基本」が大切だ、と言う。これは、間違いない。だが、現実にはこの大切なものが、「基本とは、簡単な事柄だ」と軽く考えられている。
国語辞典を引いてみた。「基礎」にしても「基本」にしても、その意味として「大本」であるとか「土台」であるとは書かれていても、「簡単な部分」などとは書かれていない。「基礎」も「基本」も、簡単という意味を含む語ではないからだ。
そんな「基礎」「基本」が軽く見られがちな理由として、三つ考えてみた。 

一つ目】:「基本なんて簡単。サラリと済ませればいい。」

「基本になんか、いつまでも付き合っていられない」という誤った考え方がある。

【二つ目】: 知識を獲得した者にとっては、「基礎」や「基本」は、もはや簡単で当たり前と言える事柄になっている。当たり前であるがゆえに意識に上りにくくなってしまう。ところが、「簡単になった基礎」が、いつの間にか「基本は簡単」という間違った知識として広がってしまった。 

三つ目】: 基礎・基本を抜きにしても、その場しのぎの解決技法を山ほど憶えれば、その場しのぎで誤魔化せるようになる。だが、物事が進んでいくにつれて、「基本を笑うものは基本に泣く」ことなる。』

 

 では、「ギター上達に大事な基本」の中身とは何であろうか。

「ゆっくり弾くこと!」だ。繋がる音を意識し、自分が弾いている音を傾聴すること。弾けないときの「ゆっくり」は当たり前だ。だが、弾けるようになってからの「ゆっくり」こそ、大事にしていきたい基本の練習なのである。メロディーと伴奏のバランス、部分と部分・全体と部分の音符の繋がり、繋がっていく指の動きの確認、音色と音量の関係等々、自分の音を感じながら音の景色を観察するには、「ゆっくり」でなければどうにもならない。弾けるからと「さらさら」弾いていたのでは、何が問題なのか、気を配るべきは何処なのか、全てがあいまいに進んでしまう為、いつまでたっても上達に至らないことになる。くどいようだが、弾けるようになってからの「ゆっくり」こそが、大事なのだ。

 下は、ある日の教室の練習風景である。

Y:もっと、ゆっくり。

S:このくらいの感じですか。 

Y:もっとゆっくりです。散歩もゆっくりだから周りの景色がよ

  く見えるでしょう。

S:え~!では、このくらいですか?

Y:もっとゆっくりです。自分の音をよく聴いて・・音量、強

  弱、バランスを感じて。

S:え~っ!これでは何を弾いているのか、よくわからなくなり

  ます。

Y:音のつながりを意識して・・・今出している音の景色をよく

  観察するつもりで、ゆっくり弾きます。・・・そう、その速さを保って・・・最後まで・・・

 S:こんなにゆっくりだったなんて、びっくり。想像もしてな

   かったです。

                      2018.04.01

                                              吉本光男