ギター上達コラム
第37回 腰を据えた練習目標の設定
先月に引き続き、「難所にぶつかったとき」の対処法について考えていこう。先月は,「曲への愛情を育む」力のつけ方について書いた。あきらめない貪欲さと呑気さを抱え持ち、弾き続ける粘り強い態度こそが大事!と書いた。どんな曲にも難所はつきものだから、教室にもサークルにも通わず自分だけで練習している場合、練習し続ける意欲を維持していくことは難しいものだ。どうすれば「熱を失わず」に練習に向かうことができるのだろうか。最近あった私自身の心模様を見つめながら考えてみよう。
8月、私は何十年と弾いていないイエペス編の「バッハのシャコンヌ」を課題の一つとして取り組んでいた。その中に数か所だけ、どうしても引っかかってしまう所があった。以前と同じところだ。イエペスの指使いの難しさが相まって何度弾いても同じところで引っかかり、立ち止まってしまう。これが何日も続くのだ。これまでの私なら、「とりあえず保留」ということして次のファイルの曲に移り気分転換をしていただろう。彼の編曲で左右の運指を指定されているとおりにやっているから余計に難しいのだ。イエペス編では使う弦にかなりのこだわりを感じる。これも音楽的表現に関係してのこと、修行と考え敢えての復習だ。
ところが、この難しい箇所が嫌になるどころか、何度弾いても楽しいのである。難しいところほどワクワクしながら練習できる。これは、長いギター人生の中でまれなる経験である。出来上がったときの嬉しさをイメージしながら、何日も何時間も繰り返し挑戦して飽きない自分がいた。やがて、思いのままに一気に繋いで弾けるようになった時の感動。やり遂げた者だけに許される、至福の達成感をたっぷりと味わうことができた。
なぜか。
この夏は体調が思わしくなく、練習目標を普段に比べてよほどゆったりとしたものにしていた。この曲も練習目標を「1か月単位」で考え、「8月中は前半の暗譜」と決めていた。つまり、暗譜することに1か月の猶予があったわけである。そのため、決めた目標に追われることなく、ゆったりとした気分で難所に向き合うことができていた。「腰を据えた目標」であったことで、難所に対しても「焦ることなく」「余裕をもって」向き合うことができたのである。苦手な指使いも、技術的に難しいフレーズも、追われない余裕の中で練習することで、「モノにしたい気持ち」を潰すことなく、むしろ難所を楽しみながら取り組むことができたというわけだ。怪我の功名の感はあるが、大きな実りであったことに違いはない。
常に自分を磨き向上させていく姿勢を保つためには、「腰を据えた練習目標の設定」が大切であることが確かな実感として残った。やり方は人それぞれではあるが、皆さんの練習計画の参考になればと思う。
勿論、「一歩一歩」、緻密な練習を「倦まず弛まずコツコツ積み上げていく」ことが最大の「上達の道」であることは言うまでもない。ただ、目標の立て方次第で、難所に向かう「コツコツ」も楽しい修行となる。
2017.10.01
吉本光男