ギター上達コラム
第33回 「一歩一歩」で「いつの間にか」
音楽に楽譜はつきものである。そして、どの時代のものであろうと作曲された楽譜には、作曲家の思いが込められている。演奏する者は、その思いを読み解こうと五線に振り分けられた音符や休符、ひっそり寄り添ういくつもの発想記号に目を凝らし、何とか「ものにしたいものだ」と願う。ただ、そう願う曲には必ずと言っていいほど「技術的に難解な部分」が仕組まれているものだ。私自身、何度もその壁にぶつかってきた。
今の技術では弾けなくても、いつの日か、必ず制覇できる時が来る!!
「いつか!」と願う気持ちをずっと胸の奥に抱えながら、今日までこの道を歩き続けて来られたことの幸せを思う。「この曲を弾いてみたい」と心をつかまれる楽曲に出会えた幸運を離してはいけない。出会いに感謝し、諦めず、じっくり時間をかけて向き合うことだ。親密に対話したり、時には脇に押しやってみたりしながら、ゆっくり全体のイメージを掴んでいけばよい。本格的に弾く段になると、ギターとの激しい格闘が始まる。しかし、心配することはない。あなたの中に「弾きたい気持ち」がありさえすれば、必ずそこにたどり着く。
「夢に日付を付けて、行動目標に落とし込む」
楽譜に日付を記し、計画的に、ただただ、一歩一歩進めていけばよい。どれほど困難を極める作業にみえても、一歩ずつ進んでさえいれば必ず願う頂きにたどり着く。禅を世界に広めた宗教学者「鈴木大拙」は、90歳を過ぎてなお130段の階段を上らなければならないところに住んでいたという。大変でしょうという新聞記者の人たちに、彼が語っていたという言葉が心に響く。
「いや、一歩一歩上がれば何でもないぞ。一歩一歩努力すれば、いつの間にか高いところでも上がっている」と。
“一歩一歩努力をすればいつの間にか高いところでも上がっているものだぞ“という彼の言葉は、人生の「金言」でもあるだろう。
ギターの演奏においてもまた、日々の丹精の中で技術が磨かれ、独自の解釈が生まれてくる。まるで霧の中を歩いているような手探りの状態から、美しいメロディーがくっきりと姿を現してきたときの喜びは、一歩一歩の努力を怠らなかった者だけが味わえる至福の境地といえるだろう。
今月のキーワードは「一歩一歩」「いつの間にか」である。
「アジア国際ギターフェスティバル」に向けて、新しい曲の練習に余念がない毎日の中で、ふと思った。「楽譜を読む」のではなく「楽譜を詠う」演奏がしたいと。日々の練習を通して浮かび上がった「新しい夢のかたち」に向かって一歩一歩である。日々の丹精の中で「夢のかたち」が自分の演奏に立ち昇る日をありありと夢みる。嬉しい未来に感謝したい。
2017.06.01
吉本光男