ギター上達コラム
第32回 「惚れる力」
3月の「ティータイム・ギターコンサート」で聴衆賞の受賞者と同数の得票数を獲得した「Iさん」は、教室に来てまだ4年目である。美しい音色に憧れて、私の教室の門をたたいたという。
「ティータイムコンサート」では、トロバのトリーハとタレガのアラビア風奇想曲の2曲を弾いた。まだ肩の力が抜けきらない演奏ではあったが、聴く者の気持ちを引き込む良い演奏であった。思いを届けるために一生懸命ギターと向き合う姿勢、美しい音色にこだわったタッチ、演奏を生かすための無理のない運指等々、4年目なりに、これまでに習得したすべてを出し切ろうとする真摯な姿がみんなの共感を得たのだと思う。
習いたての頃から現在に至るまで彼は、教室で私がしゃべる言葉をいつも録音している。また、時々私の演奏の指の動きを録画もしている。帰ってからその指使いや運指を研究しているそうだ。何度も何度も見直し、練習の手掛かりにしていたのだという。だから、私が練習中に伝えたことが次に来た時には「ほぼできる」ようになっていることが多い。
今でも彼は、気持ちいいほど努力する生徒である。単に「好き」ということだけでは説明がつかない。徹底してやり続けるために必要な「惚れる力」があるということだろうか。伸びる人というのは、この「惚れる力」を素直に表現できる人のことを言うのだろう。
あなたの日々の練習はどのようであろうか。練習を「楽しい」「面白い」と感じているだろうか。それとも「難しい」「時間がない」と感じているだろうか。たとえ30分間であっても、その時間をどう感じながら練習しているかが大事な視点である。
練習が「楽しい」「面白い」と感じている人は、目標とゴールが明確になっている人だといえる。目標のイメージが具体的で明確だと「思い」が強くなり、そこに向かうエネルギーが途切れるということがない。つまり、「惚れる力」を他の言葉で言い換えるなら、興味を持ったことに対して、「徹底して追求できる力」といえるのかもしれない。
反対に「難しい」「時間がない」と感じている人は、自分の中の目標が明確でなく、「何となく」とか「好きだから」ということで続けているのではないだろうか。もちろん、「好き」という感情は大事な要素である。だが、それだけでは長く続かないし、「面白い」にたどり着くことは難しい。「好き」と「惚れる」は似た者同士に見えるが、実は、両者の間には大きな溝が横たわっているようだ。
「好き」が育てば「惚れる」に脱皮する。自分なりの目標を持ち、日々の練習を「楽しく、面白い」ものにしていくためにも目標を明確にし、「惚れる力」を育ててほしいと願っている。
2017.05.01
吉本光男