ギター上達コラム

         第30回 命に届くメロディー

 

 ギターに限らず、それぞれの楽器が持つ音色の美しさは、時には人の命に届くのではないかと思うことがある。とことん落ち込み生きることに疲れたとき、人は何に救われるのであろうか。

 

 青春の真っただ中で経験した深い喪失感。そのとき、言葉は何の力もなかった。私の命に届いたのは、心に沁みる美しく透明感のあるギターの優美な音色そのものだった。ホールいっぱいに満ちていく音たちが織り成す美しいメロディー、言葉にできないほどの澄み切った音色が心に沁みて不思議なほど生きる力をもらったことを覚えている。ギターだったからではない。音色の美しさは、時には人の命に届くということを知っておくことは、悪いことではない。

 

 ギターを習い始めると、早く色々な曲を弾いてみたくなる。難しい曲にも挑戦したくなるものだ。勿論、挑戦すること、そのこと自体は素晴らしい。だが、その時に「私はプロではないのだから、”そこそこの音色”で弾ければいい」と思わないことだ。

プロであろうとアマチュアであろうと、ギター演奏に携わる者の心得として、人の心に届く美しい音色の演奏を目指して欲しいと願う自分がいる。私にとって癒しのない演奏は、ただの騒音でしかない。

 

 では、どうすれば「美しい音色の演奏」が可能になるのであろうか。

答は簡単である。

「美しい音色で演奏したい」と願うことである。練習の中で、美しい音色を聴き分けようと「意識する」ことである。その思いがない限り、どんな言葉を尽くして語っても通じることはない。まず、自分が出す音に耳を傾けてみよう。自分が出した音が消えていくまで、じっと聴いてみよう。少しづつ手首の位置や傾きなどを変えながら、爪のかかり具合を観察してみよう。その時に聴こえてくる音色の違いにワクワクし始めたら、あなたの「ギター上達」の道はやがて開けてくるに違いない。

                            2017.03.01

                                                                          吉本光男