ギター上達コラム
第26回 小さな曲に込められた「べっぴん」を愉しむ
ギターは小さなオーケストラといわれるように、メロディーとそれを支える伴奏とのバランスを意識し、響きの全体をよく聴き感じながら演奏していくことが大事である。つまり、繊細な楽器であると同時に高い技術が要求されるというわけだ。そのため、大抵の場合、弾くことに追われてその特性とも言える美しい音色にまで気が回らないというのが実情である。
若い頃は特に、大きな曲や難しいと言われている曲に挑戦することに意欲を燃やし、最後まで流暢に弾けることに満足しているところがあった。自身のコンサートを開催するようになった20代は勿論、30代40代50代になっても、自分自身の演奏を愉しむというところまではいかなかった。ギターに向き合う心模様や求める方向は人それぞれに違うのだから、人の心のあり様についてあれこれ言うつもりはないが、私自身の思いを語るなら、聴衆を前にして弾いている自分自身が癒され、心から愉しいと思える演奏がしたいといつも思っていた。
今年になってシリーズでサロンコンサートを開くことが続いている。それぞれ30人から70人程度の小さな会場なので、奏者と聴衆の息づかいが聞こえる近さでの演奏となる事が多い。会話のキャッチボールをしながら臨場感あふれるサロンコンサートを続ける中で、聴衆と一体となってギター音楽を楽しむ愉快さを実感するようになった。
「音色」を「楽しむ」と書いて「音楽」という。勿論、聴衆だけでなく、演奏者自身が楽しむサロンコンサートを作っていくためには、普段より精密な練習が必要であることは言うまでもない。毎日の精密な練習の積み重ねに在って、演奏を楽しむ力が少しづつ鍛えられていったのだと思う。そんな日常の中に在って、最近、小さな曲に込められた「べっぴん」を楽しむ時間が増えている。「べっぴん」とは、特別という意味だ。若いころにはつまらないと思っていた小さな曲にも、そこにちりばめられたさりげない「べっぴん」を感じながら演奏を楽しむことができるようになったということだ。大きな曲を楽しむことも一つの素晴らしい在り方だが小さな曲に秘められた「べっぴん」を引き出していく楽しさもまた、格別である。
まず、音色に心と耳を澄ませ、メロディーだけを弾いてみる。
メロディーがたっぷりと心と体に沁み込んだら、そこに伴奏をゆっくりそっと添えていく。それを繰り返すのだ。最後にメロディーと伴奏のバランスを感じながら弾いてみる。これを何度も繰り返すのだ。繰り返しの中で、それまで気付かなかった曲の
「べっぴん」が立ち現れてきた時の感動は、取り組んだ者だけに与えられる音楽神・ミューズからの恩寵といえる。
小さな曲に「べっぴん」を見出す精密な練習は、伴奏とメロディーの微妙なバランスをつかむための有効な手立てとなるだろう。皆さんも伴奏の中に立ち現れてくるメロディーの美しさを発見できることを期待しています。
2016.11.01
吉本光男