ギター上達コラム

       第24回 「素直であること」

 

 「もっともっと手首の力を抜いて、弾いてみなさい。柔らかい美しい響きになります。」

気づきを、直に生徒さんに伝える「教室」があることは有り難い事だ。

伝わったことが実感できた時は、素直に嬉しい。

以下はある生徒さんが変容していった時の話である。徐々に変わっていった目の前の風景をY子さんの承諾を得て紹介する。

 

 はじめは、あまり興味なしという感じであった。

①「力を抜いて弾こうと思っても思わず力が入るし、やっぱり無理。」

②「”力を抜く” それ自体私にはちょっと難しいです。」

③「力を入れないと・・・弦が弾けないのでは!?・・。」

初めて聞くことにはどうも用心の心が働くらしい。なかなか素直になれず、返ってくるのは「できない理由」や「抵抗の言葉」ばかりである。

そこで、ゆっくりと、もう一度、さらにもう一度、目の前でやって見せた。3度目の正直というのは確かにあるようだ。3回目にようやく自分にもやれそうな気持になったのか、試みる姿勢に変わっていった。

確かな実感への道が拓けた瞬間である。

④「だらんと力を抜いて、で、手首をたらすんですね。・・・あれっ?

  何だか手が重く感じます。」

⑤「あ、そうか。はじめは手の重さを感じながら弾くということか。」

彼女が1弦を弾いた瞬間、柔らかな美しい音がふわっと出た。

⑥「あ、そうか!こういうことですね。だらんとたらして、脱力。

  こうやって力を抜いた力で弾くのですね。」

彼女は何度も発音し、「力を抜いて弾く」方法を確かめていた。

そして最後に一言。

⑦「本当に、温かくて優しい音色になりますね。」

教室にいるわずかな時間で、彼女の心模様は大きく変容していった。

後は、彼女自身が気づきを整理し、根気強く継続して練習するだけだ。

「力を抜いた力で弾く」という技。言葉でいうのは簡単だがとてつもなく奥深い。演奏に活かすまでには、彼女もまた何度も壁にぶつかることだろう。だが挑戦することにこそ意味がある。

頭で考えているときは「やれない理由」を考えてしまう。

まずは素直になって行動することだ。何かが変わる。そして、変わった分だけ成長できる。上達する人の大事な条件に「素直であること」が一番に挙げられる所以であろう。

 

 ギターのことに限らず「道」には行動した者だけが気づける世界がある。「力を抜いた力で弾く」ことへの一歩を踏み出してみよう。きっと

毎日の練習の風景が変わってくるに違いありません。

                           2016.09.01

                          吉本光男